2018年4月18日水曜日

「100歳時代」を生き抜く“人生多毛作プラン”

今どきのシニアはとにかく元気です。平均寿命において男性80.98歳、女性87.14歳(2017年7月、厚生労働省発表)と、香港に次いで世界2位の長寿を誇る我が国では、昨年9月の時点で、100歳を超えるお年寄りの数が6万7000人を上回りました。また、米国南カリフォルニア大学のエリザベス・ゼリンスキー博士の研究では、現在の75歳と16年前の75歳を比べた結果、広範囲の知能テストで、現在の75歳のほうが昔の75歳よりはるかに成績がよいことがわかったそうです。

ここ数年、盛んに「人生100歳時代」といわれるようになりました。一説によると、先進国では平均寿命が毎日数時間ずつ延びているといいます。ロンドン・ビジネススクールの教授リンダ・グラットンとアンドリュー・スコットの共著「ライフシフト-100年時代の人生戦略-」が日本でも25万部を超えるベストセラーとなっていますが、神奈川県の黒岩祐治知事も「百歳時代-“未病”のすすめ-」という本を書いています。

長寿命化は喜ばしいことですが、一方で新たな社会問題も生み出しています。2016年の厚労省調査によると、日本では平均寿命と健康寿命の差が、男性で9年程度、女性で12年程度となっています。すなわち、男女ともに晩年の10年前後は認知症になったり寝たきりになったりする人が多く、この期間に発生する国民医療費や介護の負担が増大を続けています。我が国では、既に人口は減少に転じており、今後世代別人口構成は逆ピラミッド型になっていく流れになっています。すなわち、これまでの社会システムや人生設計が大きな転換点を迎えており、社会的にもまた個人的にも、長寿時代への備えが急務となっています。

年金の支給開始年齢も引き上げられていく中、60歳や70歳を超えても元気で働き続けないと、老後の生活が成り立たない時代が到来しつつあります。60歳前後で引退して退職金と年金で悠々自適の老後を過ごす、というような人生設計はもはや成り立ちません。これからは、人生二毛作、三毛作、多毛作といった就労プランを真剣に考えないと、生涯の収支バランスを取りにくい状況になっていきます。

しかし、これを悲観的に捉える必要はまったくないと思います。人間が長く元気でいるためには、食事、睡眠、運動に留意するだけでなく、働くことを通じて社会参加し続けることが重要な要素となります。まだまだ元気な60代で引退するのは、個人の健康や寿命の観点からも良くないですし、さまざまな知見や経験の豊富なシニア世代が引退せずに社会参加を継続することは、社会全体の生産性を向上し活力を高めるためにも重要なことです。

昨年、81歳でiPhone向けのゲームアプリを開発した若宮正子さんが、米アップル社の開発者向けのイベントWWDC2017に最高齢プログラマーとして招かれ、CEOのティム・クックから称賛されて話題になりました。若宮さんは、還暦を過ぎてからパソコンをはじめ、エクセルで作るグラフィック「エクセルアート」やアプリ開発を独学で学び、自宅でパソコン教室も開いているといいます。若宮さんのように、年齢を言い訳にすることなく、新しいことにチャレンジし、現役で活躍を続けるシニアの人たちの生き方は、まさにこれからの長寿時代を生きる上で社会を明るく照らす格好のロールモデルとなっています。

小泉純一郎元首相は、講演の最後でよく「議会政治の父」と呼ばれた政治家・尾崎行雄(1858~1954年)の話を引用します。尾崎は、亡くなる前年の94歳の時に「人生の本舞台は常に将来に在り」という言葉を残したそうです。年配者だけでなく、多くの人を奮い立たせる言葉ではないでしょうか。