2015年12月24日木曜日

ピンチはチャンス

最近、東芝、富士通、VAIOのパソコン事業統合や、東芝とシャープのシロモノ家電事業統合のニュースが流れました。

長らく日本の経済発展を牽引してきた家電産業の苦境が一気に表面化したのは、東日本大震災に見舞われた翌年、2012年3月期の決算発表時でした。ソニー、パナソニック、シャープなどの家電大手各社が、軒並み一社当たり数千億円に及ぶ巨額の損失を計上して、世間に大きな衝撃を与えました。その後、各社各様の建て直し努力が続いていますが、この問題は、それぞれの企業固有の経営問題であると同時に、日本の家電産業全体が抱える構造的な問題でもあります。すなわち、産業政策的には、業界再編を視野に入れたダイナミックな産業革新の発想とアクションが必要です。

不祥事が発覚して、深刻な経営不振に直面する東芝のリストラが起点になって業界再編が進むのは皮肉な話ですが、きっかけはともかく、今後、日本家電産業がグローバル市場での競争力を再び取り戻すためには、手遅れになる前に先を急がねばなりません。一時「産業のコメ」とも呼ばれ、1980年台には隆盛を誇った日本の半導体産業が、今ではすっかり衰退してしまったことを思えば、残された時間は長くはないでしょう。

一方で、中国資本ですが、旧サンヨーのシロモノエンジニア達が頑張っているハイアールアジアや、ベンチャーで二枚羽の扇風機やこだわりのトースターなどを次々に商品化しているバルミューダなどにはチャレンジ精神に根差した元気なエネルギーを感じます。「家電」を文字通り、「家の電気製品」と解釈するならば、今後は「家のスマート化」や「家のインテリジェント化」という流れの中で家電を捉え直し、新たな製品や事業を創出していく戦略や取り組みが求められています。

家電産業のピンチは、ダイナミックな業界刷新の大きなチャンスでもあると思います。

2015年11月25日水曜日

「テロに屈しない」?

一月に続く先日のパリでの痛ましいテロには世界中が大きな衝撃を受けました。私も慌ててパリの友人達に連絡をして安否を確認しました。ロシアの旅客機墜落もテロと断定されましたが、世界のいたる所で根深い憎しみの連鎖が加速し、大勢の罪もない人達の命を奪い続けています。

政治家が好んで使う台詞「テロに屈しない」という言葉の意味はなんだろう?と考え込んでしまいます。誰かがどこかで「テロに屈しない」という勇ましい言葉を発するたびに、またどこかで報復攻撃や報復テロが起きます。この連鎖を断ち切る知恵を人類は持ち合わせていないのでしょうか。

 我が国はよく「課題先進国」といわれます。戦争の加害者であり被害者でもある我が国は、世界で唯一原子爆弾を二発も落とされた国です。戦争の悲惨さを体験し尽くしたどん底から再起し、70年に渡る平和な国家を創り上げ、その精神や成果を海外での人道支援や経済支援にも発揮し続けて来ました。安直に「テロに屈しない」という言葉を発するよりも、そんな国だからこそのメッセージ発信や行動こそが我々の責務なのではないでしょうか。

積極的平和外交の名の下に、今や一連の安保関連法が成立し、集団的自衛権が容認されて有志連合にも名を連ねる我が国は、ISから攻撃対象国としてはっきりと名指しされています。実際、今年初めには二人の日本人が彼等に殺害されました。今や国内においても、パリやニューヨークと同様に、テロの標的としてのリスクは高まっていると認識せざるを得ません。これまでの平和外交の成果で、長く中立の立場を保ってきた日本の国際的ポジションは、既に全く異なる次元に突入しているのです。

自分に何ができるわけでもありませんが、せめて周囲の人達への感謝の気持ちを大切にしながら日々を過ごしたいと思います。

2015年10月21日水曜日

神奈川県が推進する「未病」イニシアティブ

バイオ産業ではアジア最大規模の国際展示会「BioJapan 2015」が、10月14日から16日までの3日間、横浜市みなとみらいの「パシフィコ横浜」で開催され、当社もブースを出展致しました。創薬、個別化医療、再生医療、診断・医療機器、ヘルスケア、バイオエネルギー、機能性食品等の分野で、世界30カ国から700社ほどの企業が出展しましたが、今回、神奈川県が、この展示会場の一角を使って、初めて「ME-BYO Japan 2015」を開催し、国内各社や研究機関の「未病」に対応した製品やサービスを紹介しました。 当社では、縁あってこの神奈川県の取り組みに協力することになり、これを機会にこの分野にも参入することに致しました。

「未病ビジネス」は、従来の予防、診断、ケアのアプローチに加えて、人工知能やビッグデータの応用分野としても有望ですが、「未病」というキーワードのもと、新たな価値を新規産業として創出していくことは人類の未来への備えでもあると思います。 未病とは、神奈川県の定義によれば「健康と病気を二つの明確に分けられる概念として捉えるのではなく、心身の状態は健康と病気の間を連続的に変化するものと捉え、このすべての変化の過程を表す概念」とされます。もともとは、東洋医学の考え方で、病が顕在化する手前の段階で、体を健康な状態に戻すべくケアしようという発想です。

現在、人類の平均寿命は毎日5時間ずつ延びている、というデータもあり、2050年頃までには平均寿命が100歳を超えるという説もあります。高齢化は驚くべきスピードで進んでいますが、一方で、「平均寿命」と「健康寿命」の間には、現在でも男性で約9年、女性で約13年の開きがあります。加速する超高齢社会の中で、いかに健康寿命を延ばし、将来的な医療費の増大を抑えていくかは大きな課題となっています。

世界一の長寿国家となった日本には、人類の健康増進に有効な素材や技術がたくさんありますが、事業化、産業化、グローバリゼーションという観点ではまだまだ未開拓です。世界人類共通の大テーマに、地方自治体の神奈川県が正面から向き合い積極推進することは、地方創生の観点からも大きな意義がありますが、当社も微力ながらこの分野での貢献を目指して行きたいと考えています。

10月22日と23日には、箱根で「ME-BYO Summit Kanagawa 2015」という国際シンポジウムの開催が予定されていますが、筆者もモデレーターとして参加しますので、また機会をみてその模様もご紹介したいと思います。

2015年9月23日水曜日

安全保障関連法案成立の裏で

安全保障関連法案が参院本会議で可決されました。これにより、我が国の戦後の安全保障に対する立場が大きく転換することになります。多くの憲法学者が違憲と断じる中での今回の法案成立を巡っては、中身の是非に加えて、そのやり方についても立憲主義の否定につながるとして論争となりました。

一方、9月15日から18日まで、英ロンドンで、世界最大級の武器展示会「国際防衛装備品展示会(Defence & Security Equipment International)」が開催されました。40ヶ国以上から約1500の企業などが参加し、最新の軍事関連商品が出展されて活発な商談が展開されましたが、日本からも8社が出展していて、今回は防衛省も初めてブースを構えました。日本政府は昨年、武器輸出三原則に替えて、条件を満たせば、武器の輸出や海外との技術協力を認める「防衛装備移転三原則」を閣議決定しました。これにより、早速、防衛省や関連企業は、防衛装備の輸出ビジネス拡大に向けたアクションを積極展開しているわけです。安保関連法案成立の背後に、こういう経済活動があることを見逃してはなりません。

戦後、平和憲法の下、戦争放棄した我が国は、「軍産複合体」化した戦前の国家体質を反省し、軍事と経済活動を相容れないものとして切り分けてきました。いわゆる「死の商人」ビジネスとは一線を画してきたのです。しかし、一連の安保関連法案成立の裏で、ついにその歯止めも取り払われました。

「財界の鞍馬天狗」の異名を持つ戦後の経済人中山素平は、90年、湾岸戦争で自衛隊の派兵が論議されていた時、派兵に反対し、「平和憲法は絶対に厳守すべきだ。そう自らを規定すれば、おのずから日本の役割がはっきりしてくる」と言い切ったそうです。我が国を、戦争で儲ける国などに決してしない為、今を生き、未来に責任を持つ経済人の良識が問われていると思います。

2015年8月27日木曜日

アマゾンの職場環境を巡る論争

今週発売の週刊文春の連載でも取り上げましたが、米ニューヨークタイムズが、
アマゾンがブラック企業であるかのような記事を書き、それに創業者でCEOのジェフ・ベゾスが猛反発して傘下のワシントンポストまで巻き込んだ論争になっています。アマゾンの実態はともかく、こういう話はどういう企業にとっても決して他人事ではないですね

常識を逸脱するような強制やイジメが日常的に存在する会社があれば大問題です。それを解決することは経営者の責務であり、また経営者そのものに問題があれば、それを社会が糾弾するのも当然でしょう。しかし、昨今の風潮で若干気掛かりなのは、一昔前なら当たり前だったような社内教育、上司による指導、仕事そのものの厳しさなども、「ハラスメント」と過剰に騒ぎ立てられて、経営者や企業が一方的にブラックのレッテルを貼られるようなケースが増えてきていることです。社員や元社員が、ネットで自社の悪口を拡散するのも当たり前のようになっており嘆かわしいことです。

精神論じみて恐縮ですが、会社は、社員の日々の努力や貢献に感謝を忘れず、社員も、会社から社会的立場や報酬を得、福利厚生面でさまざまな恩恵を得ている前提に立ち返って、互いに感謝を忘れない。詰まる所、それが良質な企業カルチャーを創る単純原則なのではないでしょうか。

2015年7月22日水曜日

天空の森

鹿児島に、「天空の森」というリゾートがあります。最近では、JR九州のクルーズトレイン「ななつ星」ともタイアップしていて、テレビCM等で紹介される機会も増えました。先週、その「天空の森」にオーナーの田島さんを久し振りに訪ねました。ここのところ、「おもてなし」という言葉がはやり言葉となっていますが、そもそもおもてなしとは何なのでしょうか。「お客様は神様です」という言葉がはやった時代もありました。田島さんは、長いこと「本物のおもてなしとは何か」をまるで求道者のように追及している人です。山を丸ごと購入してほとんど手作りでそこを開墾し、「天空の森」を作りました。日本にも小洒落た宿泊施設が増えて来ましたが、果たして、世界の超一流を知っている人達が何度でもリピートしたくなるようなおもてなしが出来ているところはどのくらいあるのでしょうか?田島さんが作ろうとしている理想郷が、今後どのような形に変貌して行くのかを密かに楽しみにしています。
 

2015年6月24日水曜日

少しだけ無理をして生きる

人は、ミスを犯しやすい人と犯しにくい人に分かれます。ミスを犯しやすい人は、同じミスを二度としない人と、何度でも繰り返す人に分かれます。ミスを犯しても、同じミスを繰り返さない人には成長の伸びしろがあります。また、ミスを犯しても、そのミスをすぐに挽回するような、転んでもただでは起きないタイプの人にも成長の伸びしろがあります。一方、ミスを犯しにくい人でも、時間ばかりかかって慎重すぎる人もいます。そもそもミスを犯すようなことには手を出さない人もいます。また、人は、何をやらせても手を抜かずに全力でやる人と、適当に済ませる人に分かれます。何事にも手を抜かずに全力でやる人にはやはり大きな成長の伸びしろがあります。適当に済ませてばかりいる人は、いつまでたっても中途半端なまま、気が付くと、手を抜かずに全力でことにあたることが出来ない人になってしまいます。いちばん望ましいのは、アクションが速くて、何事にも手を抜かずに全力で向き合い、時にミスは犯すけれども、同じミスは二度と起こさず、また、ミスを犯しても、それを逆転のエネルギーに転嫁できるような人です。そういう人は、高い学習能力や機転を利かせる能力に優れ、自分の限界値を高めていく才能があるので急成長していく人です。城山三郎氏の作品に、『少しだけ、無理をして生きる』という優れたエッセイがありますが、いつも自分の限界値に対して、少しだけ無理をして生きていると、途中で折れたり、息切れすることなく、自分を継続的に成長させていくことができるのではないでしょうか。そしてそのような人は周囲にもさまざまな良い影響を与えてくれることでしょう。

2015年5月27日水曜日

実学教育を実践する近畿大学

近畿大学が注目を集めています。最近では、ホリエモンの卒業式スピーチや、つんくの入学式での登壇が話題となりました。同大学は建学の精神に「実学教育」を打ち出していますが、何といっても知名度を一気に高めたのはクロマグロの完全養殖に成功したことが大きいですね。大阪グランフロントや東京銀座の「近畿大学水産研究所」の前は食事時になるといつも長蛇の列です。クロマグロの完全養殖は歩留まりが極めて低く難易度が高いとされてきましたが、30年以上の歳月を掛けた取り組みが実を結びました。商品化や流通には豊田通商やサントリーなどの企業が協力しています。食品の世界で、大学が研究成果を生かし、自ら生産したものを、産官学の連携で専門料理店まで出して消費者に直接提供するケースは初の試みとされます。ニホンウナギが絶滅危惧種指定されましたが、ウナギの完全養殖にも挑戦中だそうで、こちらにも期待が高まります。

ところで、同大学は、実学教育を標榜しているだけあって、さまざまなことに対する取り組みが先例や常識に捉われることなく、合理的です。昨年はアマゾンジャパンと、「教育、研究、学生サービス充実を図るための連携協定」を締結しました。アマゾンジャパンが教育機関と連携協定を結ぶのも同大学が初めてということです。この協定に基づき、同大学では、今年度からamazon.co.jpでの教科書販売を本格的に実施しました。東大阪キャンパスは8学部と短期大学部、大学院からなり、学生総数は約2万3000人の規模を誇ります。学生用ポータルシステム「近大UNIPA」上で自分の履修する授業を確認し、そこからリンクされたアマゾンのオンラインショップで教科書を購入することができるようになったそうです。協定締結直後の昨年後期も、アマゾンの特設サイト「近畿大学教科書ストア」で教科書を購入することができたようですが、今年は学生の履修確認システムが直接オンラインショップにつながったことで、利便性が格段に高まったそうです。

教科書販売の世界はそもそも既得権益の世界で、この「今さら?」というレベルの「改革」を断行するのですらさまざまあったようですが、学生にとっては、教科書一斉販売時期の学内書店の大混雑を回避できるので好評のようです。また、この連携によって、大学が発行する授業計画を必要に応じて印刷する「プリント・オン・デマンド」も出来るようにしたそうで、それまで数百ページに及ぶ授業計画を印刷製本して学生に一冊ずつ配布していたものを大幅な事務合理化とコスト削減に繋げました。

大学改革も一歩一歩なのでしょうが、近畿大学のように実践的な大学が増えて行けば日本の産学連携のレベルもさまざま変わっていくことでしょう。

2015年4月5日日曜日

ルミネ動画炎上事件

先日、ルミネがYouTubeに公開した「働く女性たちを応援するスペシャルムービー」と題したプロモーション動画が大炎上し、不買運動にまで発展しました。公開された二本の動画は即座に非公開となり、ルミネも謝罪に追い込まれました。

ところで、業態にもよりますが、商売の世界では、メーカー、流通、顧客のパワーバランスが時代と共に変遷してきました。ユニークで強い商品を持っていれば当然メーカーが強い立場に立てます。

家電の世界でいえば、昔のソニーがそうでしたし、今のアップルがそうです。しかし、デジタル家電の時代になって、多くのメーカーが似たような競合商品ばかり作るようになると、流通の立場が一気に強まりました。そしてその後、ネットが普及して、今や顧客が最も強い時代になったといえます。

購入商品や店の対応が気に入らないと、ツイッターやフェイスブックなどのソーシャルメディアに顧客がさまざまな書き込みを行い、それが瞬く間に拡散していきます。メーカーや流通各社は顧客の不満への対応を誤ると、たちまち商品の悪評が過度に広まったり、ブラック企業のレッテルを貼られてしまいます。実店舗を展開する小売業は、ネット通販の拡大でいわゆる「ショールーミング化」への対応にも苦慮しています。

ネットインフラが発達し個人の力がエンパワーされる素晴らしい時代ですが、商売の舵取りは難しくなる一方です。迷った時には「顧客満足」の原点に戻ることを忘れないようにしたいと思います。

2015年3月5日木曜日

地方創生のモデル都市、富山市

今月、いよいよ北陸新幹線が開通する。東京と北陸地方とを結ぶ新たな動脈がもたらす経済効果に期待する人たちは多い。そんななか、先日、富山市を訪問した。

富山市は、コンパクトシティ構想の下、「団子と串」というコンセプトの都市構造形成に取り組んでいる。各市町村を「団子」、それを結ぶ鉄道やバスなどの公共交通を「串」に見立て、市内の中心部を環状型にライトレール(路面電車)などで結びながら商業施設などの都市機能を集中させ、そこから各方面に繋がる沿線の居住地域には補助金を出すなどの形で、高齢化社会にも耐えうる効率的な街づくりを目指してきた。これは、地方都市再生のモデルとして、ほかの地方都市にも大いに参考になる取り組みとなっている。

実際、富山市は、2008年7月に低炭素社会の実現に向けた先駆的な都市として「環境モデル都市」に選ばれている。さらには、2011年12月に、その構想が、地方都市の課題を解決する有望なモデルになりうると評価され、「環境未来都市」にも選定された。

また、2012年6月には、OECD(経済協力開発機構)によって、メルボルン、バンクーバー、パリ、ポートランドと並んで、コンパクトシティの先進モデル都市にも選出され、世界的にもその評価を得るに至っている。環水公園周辺など、神通川や運河の景観を生かして街並みも美しく整備されており、まるでドイツなどヨーロッパの街並みを思わせるような雰囲気もある。

また、日本海側の岩瀬地区に行くと、その昔、北前船といわれる北海道との交易船の拠点として廻船問屋が栄えた地という歴史を大切にした街づくりが行なわれている。通りに面した建物の表側を地域単位で改装して、江戸時代の古い街並みを再現し、そこにギャラリーや工房やレストランや酒蔵を作るなど、京都の町屋の再開発に似たような取り組みで趣のある一角を形成している。ここにアーティストやデザイナーなどが集まり、まさに地域ルネッサンスのような活動の拠点ともなっている。

市内にある『樂翠亭(らくすいてい)美術館』などは、日本家屋の佇まいや日本庭園の景観を活かした素晴らしいアートの空間となっている。また、春日温泉まで足を延ばすと、『リバーリトリート雅樂倶(がらく)』というリゾートホテルがあり、その中のLevoというフレンチレストランでは、地域の作家が作った食器や家具と見事に調和した谷口シェフの素晴らしい創作フレンチを堪能することもできる。

東京一極集中の結果、その反動で日本の地方が抱える課題は多いが、一方で、さまざまな地方都市に行くたびに、日本人も知らないような素晴らしい発見もたくさんあり、日本の秘められた可能性を感じずにはおれない。

富山市が目指す「お団子と串」の都市構造
資料提供:富山市

2015年1月12日月曜日

無財の七施

2015年を迎えました。新年おめでとうございます。本年が素晴らしい年となりますことを祈念しております。

お釈迦様の教えに「無財の七施」というものがあるそうです。「お金をかけない」で人に喜んでいただくことが人間関係においてもっとも喜ばれることである、ということで、そういう生き方や態度を奨励するものです。

▼「無財の七施」
 1.優しいまなざしで人に接する(眼施・げんせ)
 2.温かい笑顔で人に接する(和顏悦色施・わげんえつじきせ)
 3.思いやりある言葉をかける(言辞施・ごんじせ)
 4.人のために手足を使い汗を流す(身施・しんせ)
 5.感謝の心で人に接する(心施・しんせ)
 6.自分の席や場所を譲る(牀座施・しょうざせ)
 7.一夜の宿を人に提供する(房舎施・ぼうじゃせ)

お金をかけずに態度や体で示す行為がいちばん人に喜ばれ、お金や物を使って喜ばれる行為をするよりも優先度が高いという教えです。こういうことは当たり前の話のようにも聞こえますが、実際に実行するのは簡単ではありません。いろいろと手間がかかったり、努力が必要となります。「笑顔」ひとつとっても、いつでも誰にでも実行できるものではありません。

昨年、YouTubeで見た2014年のTEDxSapporoのスピーチで、植松努さんという方が、「どうせ無理」という言葉をこの世から無くしたい、と熱弁を奮っていました。夢や希望を持って頑張っている人たちに対して、冷たい態度や心無い言葉で接し、そのやる気や自信を奪っていく周囲の人たちの存在が世の中の活力を削いでいる、という主張で共感するものがありました。世の中、実際には「無財の七施」の逆の行動をとる人のほうが多いということだと思います。

日本には「出る杭は打たれる」という言葉があります。こういう言葉が生まれるのは、日本の社会に根強くそのような体質があるからでしょう。最近の言葉ではKYというのもありますが、場の空気を乱し、出しゃばる人はとにかく嫌われます。何事も謙虚に、自分をアピールするよりも周囲に気を遣い、まずは相手を立てる、これは日本が長い歴史のなかで培ってきた美徳のひとつでもありますが、周囲と違うタイプの人を仲間外れにするような風潮は「いじめ」にもつながっており、改めなければならないものです。

昔のソニーでは、求人広告に、「出る杭求む!」や、「英語で啖呵の切れる人求む!」というようなキャッチコピーを使っていました。創業者のひとりである盛田昭夫さんも、「私は生意気な人が欲しい。ソニーというのは生意気な人の個性を殺さない会社です。」と発言しています。また、ソニーと並ぶ戦後企業の代表格であるホンダでは「能ある鷹は爪を出せ!」と言っていたそうです。それはなぜかといえば、世の中のイノベーションというのは大抵そういう人から生まれるということを知っていたからなのでしょう。やはりソニー出身で、ニューズワークステーションやAIBO等のロボット開発を手掛けた天外伺朗氏こと土井利忠氏は、『人材は「不良社員」からさがせ』という本を出しています。

直接お目に掛かったことはありませんが、昨年、青色LEDの実用化でノーベル物理学賞を受賞した中村修二教授などもまさに出る杭の典型だったようです。日亜化学工業時代の中村氏は相当な変わり者で、会社命令を一切無視し、人にも合わず、電話にも出ずに実験装置の製作に没頭していたと言いますし、特許訴訟に至った行動や言論は世間でも大きな話題になりました。

ただ傲慢な人や生意気な人が、必ずしも出る杭というわけではないでしょうし、そういう人をやみくもにちやほやしたところで、イノベーションを生み出すような偉業を達成するとは限らないと思います。しかし、真に出る杭な人たち、すなわち、打たれても打たれてもへこたれず、自分の信じる道を貫いて必ず結果を出すような馬力の持ち主に対しては、まずは世の中の人たちが上記の「無財の七施」を惜しげなく思いっきり施してはいかがでしょうか。夢や信念を持ってチャレンジする人たちにとっては、周囲の応援や激励や手助けが何よりの活力になるでしょう。もちろん、その上で、最後には「お金の支援」もしてあげれば、それだけでさまざまな「夢」が実現する世の中になるのではないでしょうか?

アベノミクスの成長戦略の最も有効な施策は、実は「出る杭たちへの無財の七施」に尽きるのではないかと思います。