2014年8月31日日曜日

ALS Ice Bucket Challengeに思うこと

ALS(筋萎縮性側索硬化症)という難病に対する理解と支援を目的とした「ALS Ice Bucket Challenge」が世界的に大きな話題となりました。各界の著名人がたくさんこのイベントに共鳴して頭から氷水を被っている映像をSNSでシェアしています。

多彩なセレブ達が氷水を浴びる動画が次々と評判を呼んで、この運動は瞬く間に世界中に拡がり、短期間で日本円にして30億円を超える寄付が集まったようですし(現在進行形)、まさにネットやSNSの威力をまざまざと見せつけてくれたとともに、グローバルスケールでのバイラル・マーケティングの最大の成功事例の一つでもあると思います。また、このような助け合いの輪が世界中に広がっていくこと自体は実に素晴らしいことだと思います。

しかしながら、この運動の発案者といわれる若者が事故で亡くなったり、パフォーマンスが行き過ぎて死者や怪我人が出るなど、この運動を巡ってはさまざまな話題や議論も巻き起こっているようです。夏季の水不足が深刻な米国カリフォルニア州では、チャレンジへの参加は水の無駄遣いとして罰金を課すことにしたとの話も耳にしました。

先日、この順番が、あろうことか、私にも回って来てしまいました。ルールとしては、指名された人は、24時間以内に、氷水を頭から被るか、$100の寄付をするか、どちらかの選択をして、次に続く人を3名指名しなければならないことになっています。私は、氷水を被ることはせずに、おとなしく$100をALS Associationに寄付しました。そして、次に続く3人の指名も見合わせました。

理由はさまざまありますが、端的に言うと、既に過熱気味に世界中が十二分に盛り上がっている中で、更に自分が今さら氷水を被りその映像をアップすることにあまり価値や意義を感じなかったためです。次に続く3人を指名する、というルールも、チェーンメールやねずみ講のようで、指名する人達に余計な同調圧力を掛けるように感じたために、勝手ながら、私に繋がった分岐は私で終わりにすることとさせていただきました。

本当は、もっと気の利いた対応をしてこの運動の盛り上がりにも少しでも貢献できればオシャレなんでしょうが、自分として最も誠実な対応は何かということを考えての結果です。オシャレと言えば、英国の俳優パトリック・スチュアートさんの対応などはいかにも英国紳士らしいスマートなものです。サッカーのブラジル代表 ネイマール選手がワールドカップで自分に怪我を負わせたコロンビアのスニガ選手を指名して因縁を水に流したのも爽やかで話題を呼んでいました。

しかし、この運動の本質がALSの認知を拡げその患者への支援にあるのであれば、実際の患者の皆さんがこの運動に対してどういう思いをしているのかということがとても気になるところです。ネット上では、この運動をあまり快く思っていない患者の方からの意見も目にしました。

現在、世界中には、ALSに限らず、難病で苦しんでいる人達がたくさんいます。また、昨今のシリア、イラク、ガザ、ウクライナなどでの紛争では、多くの一般市民の人達が日々犠牲になる状況が続いています。日本でも、東北地方では未だに多くの被災された皆さんの苦労が続いていますし、最近も、広島では未曾有の豪雨による大きな災害も発生したばかりです。そしてそのような世界各地の状況を憂えて活発に活動しているNPOや、Ice Bucket Challengeの盛り上がりをよそに、ボランティア活動などの地道な行動を起こしている人達もたくさんいます。

そもそも、この世には弱者も強者もなく、人というのは一様に一人では決して生きられない弱い存在です。日本には、「互譲互助」という素晴らしい言葉もありますが、「お互い様」という精神でまずは周囲の人達のことを思いやることを大事にしていきたいと思います。その上で、今回の運動も一つのきっかけとなって、世界中の人達が、身の回りや遠く離れた場所で辛い思いをしている人達に対して継続的に思いを寄せ続け、どんな小さなことでも、自分に出来ることを考えて何らかの行動を起こしていく、という助け合いの輪が広がっていくことを心から願いたいと思います。

(*講談社の現代ビジネスブレイブのメルマガに寄稿したものの転載です)