2012年2月13日月曜日

G1で見つけた10の事実

グロービスの堀義人さん達が主催されている「G1サミット」というイベントに堀さんからお誘いいただいたので、2泊3日の合宿に初参加してきました。政財界の第一線で活躍する多彩な方々が一堂に会して多方面にわたる課題について議論を展開する素晴らしいイベントでした。そこで、単に私が無知だった、ということも含めて「G1で見つけた10の事実」を羅列します。
  1. 日本にもこのような日本版ダボス会議のような場が存在していたこと。
  2. 人類に大きな貢献が期待される日本発で世界最先端のiPS細胞の研究開発が、実は資金繰りに苦労する状況にある。
  3. 日本の若者は国内旅行をしない。対馬には毎年韓国から7万人の観光客が来るが、日本人観光客は3万人にとどまる。
  4. 日本のリゾートの宿泊ビジネスは、目安として年間で100日が黒字、残りの265日は赤字。
  5. いわゆる大企業内でリストラの対象になって仕事をしていない企業内失業者を含めた日本の実質失業率は12%
  6. 1990年から2010年までの20年間で、米、独、日の名目GDPの成長はそれぞれ2.5倍、1.94倍、1.08倍であり、東京への一極集中が成長阻害要因の一つという分析があること。
  7. 農業従事者がTPPに反対しているように報道されているが、実際に反対しているのは農協の職員達とそれに扇動されている高齢者農家。若手は積極派が多い。
  8. 牛乳の生産コストはニュージーランドが最も安くて¥15/L、日本では一番安い北海道でも¥65/Lである。
  9. 第一列島線、第二列島線という東西冷戦時代から続く日本列島を基軸とした防衛線の存在と、中国のA2AD(Anti-Access/Area Denial)戦略。
  10. 中国では、一日に暴動が400-500件ほど発生している(年間で18万件前後)。
以上、その他多くの学びの中からの勝手な抜粋です。

2012年2月6日月曜日

日本家電産業の壊滅

日本の家電産業が業績悪化に苦しんでいる。2012年3月期最終見通しとして、パナソニックが7800億円の赤字、ソニーが2200億円の赤字、シャープが2900億円の赤字を発表した。三社合わせて1兆3000億円程の途方もない損失という衝撃的な数字だ。また、やはり長く優良企業の代名詞でもあった任天堂も今期450億円の赤字見通しを発表している。株価も低迷が続いている。ソニー株は2003年のソニーショック時の半値以下という惨憺たる状況でもはやハイテク株の名残はどこにもなく、2007年には7万円を超えた任天堂の株価もついに1万円を割った。

いったい何が起きているのか?

言うまでもなく、昨年は震災、タイの洪水、ヨーロッパの信用不安等が重なり、今回の数字にはそのようなことを理由とする一時的な要因も含まれてはいるが、 これらの業績不振が物語る本質は、決して一過性の問題ではなく、日本経済の構造的な問題と関連しているという点に注意しなければならない。

簡単に言うと、インターネットやクラウドが我々のインフラとして登場してから、20世紀までの家電やゲームの世界が完全に再定義されて様変わりし、まるで別の土俵に変わってしまった、ということに起因している。もはや従来のテレビやパソコンやモバイルやゲーム機といった垣根は無くなり、商品の定義もすっかり変わって、すべてがクラウドを前提とした別の生態系の上にシフトしてしまった。そしてデバイスそのものは、デジタライゼーションや「ムーアの法則」を背景にコモディティ化が進み、使い捨てを前提とした消耗品という位置付けに変わった。Before Internetの時代に日本勢が強味を発揮した高品質の耐久財を生み出すスタイルや、デバイスの特徴で差別化するスタイルはもはや通用しなくなったのだ。

結果として、20世紀の市場の覇者であった日本勢はその変化に追随できずに追いやられ、新たな生態系の構築に成功したアップルやグーグル、日本からの学びを活かして変化に素早くかつ貪欲に追随したサムソンなどに主役の座を完全に奪われてしまった、という構図である。上記の、日本を代表する優良企業の軒並みの巨額赤字決算は、その構図が、昨年の苦境をきっかけに一気に顕在化した、と捉えるべきであろう。今更ながらの話ではある。

今後、この変化は家電業界に留まらない。自動車業界も、テスラモーターズなど、クルマの会社というよりも、シリコンバレー発のIT企業と見做した方がいい新興勢力が生まれている。彼等は、モノ造りのスタイルも、スピードも、ビジネスのやり方も、従来のクルマの会社とはまったく違う。

家電業界で起きてしまったことを他業界は教訓として活かして欲しい。

週刊東洋経済2012/1/28号 表紙

2012年2月2日木曜日

荒天準備

盛田さんが残してくれた言葉の中に、「荒天準備」という言葉がある。世の中が好景気に浮かれているまさにその絶頂の時に、盛田さんは当時のソニー社内へ、「荒天準備」というメッセージを常に逸早く発信されていた。もともと船乗り用語で、「嵐に備えよ」というメッセージである。

ビジネスマンたるもの、順調だな、とか、絶好調だな、とか、幸せだな、とか、向かうところ敵なしだな、とか、一瞬でも思ったとしたら、それは自分自身に対する危険信号だと思わなければならないと思う。 盛田さんには常にそういう緊張感があった。

ビジネスというのは、常に下りのエスカレーターを掛け上がっているようなものだと思う。一瞬でも気を抜いて休んだ途端に真っ逆さまに下り落ちてしまう。現状維持なんてことはありえないのだ。そういう意味では企業経営者の資質としての大事な要素の一つとして「臆病」という要素もあると思う。生き残る為には常に外敵や環境の変化に対して臆病でなければならないのだ。

グーグルだって非常に臆病な会社だ。今の繁栄が明日も続くなんてこれっぽっちも思っていない。だからこそ、屍の山を築きながらも、常に新たな開発投資や企業買収に余念がないのだ。

今日のソニーの会見からはまったく緊張感が伝わってこなかった。プレゼンテーションなんか別に下手くそでも構わないから、本来、聞きたかったのは魂に訴えかけるメッセージだ。医療ビジネスなら医療ビジネスでもいいから、何ゆえソニーがこのタイミングで医療ビジネスに本腰を入れようとするのか、その大義や志を聞きたかった。今の危機的状況を跳ね返すパッションを感じたかった。そういう意味では、何一つ、心に響いてくるものが無かったのは極めて残念であった。